
「役員はいるのに、結局すべて自分が判断している」「部長までは育つが、経営を任せられる人がいない」「役員会を開いても社長が話し、他の役員は聞いているだけ」「自分が現場から離れたいが、任せると会社の数字が悪くなりそうで怖い」「後継者候補はいるが、本当に会社を任せられるか分からない」。こうした悩みを抱えている社長は少なくありません。社員数や売上が増えてくると、社長一人ですべてを判断する経営には限界が訪れます。営業、採用、商品、財務、組織、新規事業、投資、提携など、会社が成長するほど経営判断は増えていくからです。
そこで必要になるのが役員です。しかし、役員という肩書を与えただけで経営者になるわけではありません。優秀な営業部長を取締役営業本部長にしても、営業のことしか考えなければ「役職が役員になった部長」のままです。経営者に必要なのは、自部門の成果だけではなく、会社全体を見ながら判断する力です。営業部門にとってプラスでも会社全体では利益を圧迫するならどうするか。採用を増やせば現場は楽になるが固定費が増える場合どうするか。短期利益を取るのか、将来へ投資するのか。既存事業を守るのか、新規事業へ資源を移すのか。こうした正解のない問題を考え、決断し、その結果に責任を持つことが役員には求められます。
役員育成が難しい理由は、知識不足だけではありません。社長自身が経営判断を抱えたまま、役員候補には「もっと経営者目線を持ってほしい」と求めているケースがあります。しかし、数字を見せない、重要会議に参加させない、投資判断をさせない、人事権を渡さない、失敗しそうになると社長が止めるという状態では、経営者目線を育てることは困難です。役員育成とは研修だけではなく、社長が持っている情報、判断基準、権限、責任、経験を段階的に渡していく経営課題なのです。
この記事では、社長が役員を育成するときによくある誤解から、役員が育たない構造、放置した場合の経営リスク、そして会社を任せられる役員を育てる6つの実践ステップまで解説します。目指すのは「社長の代わりになる一人」を探すことではありません。複数の役員がそれぞれの強みを持ちながら、共通の理念と判断基準で経営できるチームをつくることです。
よくある誤解
1.優秀な部長なら役員になれる
部長として成果を出している人は、役員候補として有力です。しかし、部長と役員では求められる視点が異なります。部長は自部門の目標達成を考えますが、役員は会社全体の最適を考えなければなりません。営業部長なら売上を伸ばすことが重要ですが、役員になれば利益、資金、人材、商品、ブランド、リスク、将来投資まで考える必要があります。自部門の成果を最大化する人から、会社全体の価値を最大化する人へ役割を変える必要があります。
2.経営知識を学ばせれば役員になれる
財務、マーケティング、経営戦略、組織論などを学ぶことは重要です。実際、経営幹部育成では経営リテラシー、意思決定、リーダーシップなどが主要な教育テーマになっています。 しかし、経営知識を持っていることと経営できることは別です。利益が落ちている事業を撤退するのか、人材へ追加投資するのか、重要顧客から無理な要求を受けたときどう判断するのか。経営では答えが決まっていない問題に向き合う必要があります。知識だけではなく、実際に判断し、その結果を振り返る経験が必要です。
3.社長と同じタイプの人を育てればよい
役員育成というと「自分と同じように考えられる人を育てたい」と考える社長もいます。しかし、社長のコピーを作る必要はありません。営業に強い社長なら、財務、組織、商品、テクノロジーなど、自分とは違う強みを持つ役員がいた方が経営チームとして強くなる場合があります。共有すべきなのは性格や仕事のやり方ではなく、理念、会社の目的、重要な判断基準です。
4.失敗させないことが育成になる
重要な案件ほど社長は失敗させたくありません。そのため役員候補へ任せても、途中で社長が口を出し、最終的には社長が決めてしまうことがあります。しかし、それを繰り返すと候補者は「最後は社長が決める」と学習します。経営者には、判断して結果を受け止め、改善する経験が必要です。会社へ致命的な損害を与えない範囲を決めたうえで、一定の失敗を経験できる環境を作る必要があります。
5.役員になってから育てればよい
役員に任命してから経営者教育を始めるのでは遅い場合があります。次世代経営人材の育成では、部長や事業責任者などの段階から経営者候補を選抜し、中長期的に育成する考え方が重視されています。 役員になる前から、経営会議への参加、予算責任、新規事業、採用、組織改革などを経験させ、役員としての適性を見ることが重要です。
なぜうまくいかないのか
1.役員に求める役割が決まっていない
「もっと経営者目線を持ってほしい」と社長が言っていても、何をもって経営者目線とするのかが明確でない会社があります。売上を作ることなのか、利益を見ることなのか、人を育てることなのか、新規事業を作ることなのか。役員に求める役割が曖昧なら、本人も何を伸ばせばよいか分かりません。まず、自社の役員に必要な能力を理念理解、戦略、財務、人材、意思決定、実行、リスク管理などに分解する必要があります。
2.経営情報を社長だけが持っている
役員候補へ経営者目線を求めながら、会社全体の利益、キャッシュ、顧客構成、人件費、投資計画などを共有していない会社があります。情報がなければ、全社視点で判断することはできません。役員候補の段階から、必要な範囲で会社全体の数字を見せ、数字から経営課題を考えさせることが重要です。
3.判断基準が社長の頭の中にある
「この案件は受ける」「この会社とは取引しない」「この人は採用する」「今は投資する」といった判断を、社長が経験と感覚で行っている会社があります。社長自身には理由がありますが、それが言語化されていなければ役員候補は学べません。何を優先するのか、どんな顧客と付き合うのか、利益と成長をどう考えるのか、どこまでリスクを取るのかなど、社長の判断軸を言葉にする必要があります。
4.仕事は渡しても権限を渡していない
「この事業を任せる」と言いながら、値決めは社長、採用も社長、投資も社長、取引先選定も社長では、事業責任者は実質的な経営経験を積めません。責任だけ渡して権限を渡さない状態では、役員候補は育ちにくくなります。金額やリスクに応じて決裁権限を段階的に渡し、自分で決められる範囲を広げる必要があります。
5.部門の成果だけで評価している
役員候補を営業成績や部門利益だけで評価していると、全社最適を考える人材が育ちにくくなります。自部門の売上を増やすために他部門へ負担をかける、人材を囲い込む、情報を共有しないという行動でも、自部門の数字だけなら評価されてしまうからです。役員候補には、全社利益、人材育成、他部門連携、会社基盤づくりなども含めて評価する必要があります。
6.社長自身が手放せていない
役員育成における大きな壁が、社長自身の仕事の手放し方です。自分で判断した方が早い、自分が営業した方が売れる、自分が採用面接した方が良い。これは事実かもしれません。しかし、社長が毎回答えを出している限り、役員は答えを考える必要がありません。役員育成とは役員側だけの課題ではなく、社長自身が「自分でやる経営」から「人を通じて経営する経営」へ変わることでもあります。
5方良し経営を体系的に知りたい方へ
《無料セミナー 開催中》
― 利益・理念・幸せを両立させる新時代の経営 ―
「利益だけでなく、人も会社も幸せにする経営」
それが 5方良し経営。 「会社・従業員・顧客・世間・次世代」すべてが豊かになる仕組みを体系的に学べます。
5方良し経営セミナーとは?
経営の原理原則を、実践ワークと事例で学べる90分講座。
放置するとどうなるか
1.会社の成長が社長の処理能力で止まる
役員が育っていなければ、重要な判断はすべて社長へ集まります。社員が増え、事業が増え、拠点が増えるほど確認事項も増えます。社長の一日は24時間しかないため、最終的に会社の成長速度が社長の処理能力によって制限されます。売上を伸ばす前に、意思決定を分散できる経営体制が必要になります。
2.社長が未来を考える時間を失う
社長が案件確認、採用面接、クレーム対応、見積確認、社員相談まで行っていると、現在の会社を動かすだけで時間がなくなります。しかし、本来社長が考えるべきなのは、3年後、5年後の会社、新規事業、M&A、海外展開、提携、次世代人材などです。役員が育たないことは、現在の業務だけでなく未来の成長機会まで失う原因になります。
3.次の役員候補も育たなくなる
現在の役員が自分の仕事を抱え込めば、その下の部長も育ちません。部長が仕事を抱えれば課長も育ちません。社長から役員、役員から部長、部長から課長へと仕事と権限を渡す仕組みがなければ、組織全体が上司依存になります。役員育成は一人の幹部を育てる話ではなく、会社全体の人材育成構造に影響します。
4.事業承継の選択肢が狭くなる
後継者候補がいても、経営経験がなければ突然会社を任せることは難しくなります。特に社長だけが重要顧客、金融機関、採用、投資、経営数字を握っている会社では、代表交代時の負担が大きくなります。次世代経営者を計画的に育成することは、中長期的な企業価値や事業継続にも関係する重要なテーマです。
5.優秀な人材が会社を離れる可能性がある
能力の高い社員ほど、より大きな責任を持ちたいと考えることがあります。しかし、何年働いても社長がすべてを決め、自分には裁量がない状態では、成長機会が少ないと感じる可能性があります。役員育成の仕組みを作ることは、次世代人材へ「この会社では経営まで経験できる」というキャリアの可能性を示すことにもつながります。
6.社長に何かあったとき会社が止まる
最も大きなリスクは、社長が突然経営できなくなった場合です。重要な判断基準、取引先との関係、資金計画、経営情報が社長だけに集中していれば、会社の意思決定が止まる可能性があります。役員育成は人材教育であると同時に、経営リスクを分散する取り組みでもあります。
5方良し経営を体系的に知りたい方へ
《無料オンライン説明会 開催中》
『5方良し経営 実装プログラム』
学ぶだけで終わらせない
5方良し経営を自社に導入し、売上・組織・理念を同時に成長させるための実装支援サービスです。
- 経営理念の言語化と浸透
- 採用・育成・評価の仕組み構築
- 集客・利益設計:業務改善から経営まで一気通貫
《解決策》
実践ステップ
役員育成では、研修を受けさせるだけではなく、経営者として必要な判断を実際に経験させることが重要です。経営リテラシー、リーダーシップ、大局観などを体系的に学ぶことに加え、現在の仕事を超える課題へ挑戦し、意思決定と実践を経験させる考え方も重視されています。 ここでは、自社で役員候補を育てる流れを6つに整理します。
1.自社に必要な役員像を定義する
最初に「優秀な人」を探すのではなく、「自社ではどんな役員が必要なのか」を決めます。理念を理解している、会社全体の数字を見られる、中長期戦略を考えられる、人を育てられる、難しい判断から逃げない、他部門と連携できる、社長へ反対意見も言えるなど、自社が必要とする役員像を具体化します。CEO候補、営業担当、財務担当、人事担当など役割によって必要能力も変わります。役員像を決めることで、候補者選定と育成内容をつなげられます。
2.社長の理念と判断基準を言語化する
次に、社長が日常的に行っている判断を言葉にします。何のために会社を経営しているのか、どんな顧客を大切にするのか、利益を何に使うのか、社員をどう考えるのか、どのような仕事は断るのか、どこまでリスクを取るのか。役員が社長とまったく同じ答えを出す必要はありません。しかし、会社として絶対に外してはいけない原理原則は共有する必要があります。これが経営チームの共通言語になります。
3.会社全体の数字を見せて経営課題を考えさせる
役員候補には、自部門の売上だけでなく、売上総利益、営業利益、キャッシュ、人件費、顧客別利益、商品別利益、採用費、解約率など会社全体の数字を段階的に見せます。そして「数字を報告する」のではなく、「この数字から何が問題だと思うか」「来期どこへ投資するか」「何をやめるか」まで考えさせます。財務知識を勉強するだけではなく、自社の数字を使って意思決定することで経営感覚を育てます。
4.小さな経営から任せる
いきなり会社全体を任せる必要はありません。一つの商品、一つのプロジェクト、一つの拠点、一つの事業など、範囲を限定して経営を経験させます。売上目標だけではなく、予算、人員配置、採用、価格、営業、実務改善まで任せます。重要なのは「仕事を任せる」のではなく「結果を出すための判断まで任せる」ことです。小さな経営単位で成功と失敗を経験させ、徐々に責任範囲を広げます。
5.意思決定をさせ、結果を振り返る
経営者としての成長には、実際に決める経験が欠かせません。「あなたならどうする?」と聞くだけではなく、一定範囲では本人に決定させます。そして結果が出た後に、なぜその判断をしたのか、どの情報を重視したのか、何を見落としたのか、次ならどうするかを振り返ります。失敗したときに答えだけ教えるのではなく、判断過程を検証することで意思決定能力を育てます。
6.役員を一人ではなく経営チームとして育てる
最終的には、万能な右腕一人へ会社を任せるのではなく、複数人で経営できる状態を作ります。営業に強い役員、財務に強い役員、人材に強い役員、商品に強い役員など、それぞれの専門性を持ちながら会社全体の視点で議論できる経営チームを作ります。経営会議では社長の報告を聞く場ではなく、役員自身が課題を持ち込み、数字を確認し、選択肢を出し、議論し、決める場へ変えます。社長は答えを出す人から、経営チームが正しく判断できる仕組みを作る人へ役割を変えていきます。
7.一般的解決策との違い
一般的な役員育成では、財務、戦略、マーケティング、リーダーシップなどを学ばせる研修が中心になりやすい傾向があります。これらの知識は必要ですが、本記事では「学ばせること」だけでなく、「実際に経営させること」を重視します。会社の数字を見せ、予算を持たせ、人を任せ、判断させ、結果に責任を持たせ、振り返る。この経験を段階的に増やします。また、役員候補だけを変えるのではなく、社長自身が情報と権限を渡すことまで役員育成に含めます。役員が育たない原因を本人の能力不足だけにせず、経営構造そのものから改善する点が大きな違いです。
役員育成は、研修を受けさせて終わりではありません。必要な役員像を決め、社長の理念と判断基準を共有し、会社全体の数字を見せ、小さな経営を任せ、意思決定と振り返りを繰り返し、最終的に経営チームへ育てます。役員を育てるとは、社長の知識をコピーすることではなく、社長がいなくても理念と数字に基づいて経営判断できる人材を増やすことです。
5方良し経営で再設計
役員育成を考えるとき、目的を「社長の仕事を減らすこと」だけにすると、権限移譲が単なる負担の押し付けになってしまうことがあります。本来の役員育成は、会社、従業員、顧客、世間、次世代のそれぞれに価値が残る経営体制をつくることです。社長一人に集中していた判断力や責任を組織へ移しながら、役員自身が経営者として成長し、その成長が社員、顧客、取引先、未来の会社へ広がっていく状態を目指します。
1.《会社良し》
社長一人に依存しない経営体制を作る
会社良しでは、役員育成を単なる人事施策ではなく、会社の成長速度を高める経営基盤づくりとして考えます。営業、商品、人材、財務、管理、新規事業などを複数の役員が担い、共通の理念と経営目標をもとに意思決定できれば、社長一人へ判断が集中しにくくなります。重要案件の確認、採用、値決め、投資、顧客対応など、すべてを社長が判断する状態から、一定範囲を役員が自ら判断できる会社へ変えていきます。
さらに、役員ごとの責任範囲を明確にしながらも、自部門だけの成果を追うのではなく、会社全体の売上、利益、キャッシュ、人材、顧客、将来投資まで考えられる状態をつくります。営業担当役員が売上だけを見るのではなく、その売上が実務負荷や利益へどう影響するかまで考える。人事担当役員が採用人数だけではなく、人件費、生産性、定着、次世代育成まで考える。このように全社最適で判断できる役員が増えるほど、会社の経営力そのものが高まります。
役員が現在の会社を安定して動かせるようになれば、社長は日々の確認業務から少しずつ離れ、3年後、5年後の事業、新市場、新商品、提携、M&A、海外展開など未来の成長戦略へ時間を使えるようになります。社長が現場を離れることで会社が弱くなるのではなく、社長が未来へ集中できるからこそ会社がさらに成長できる状態をつくることが会社良しです。
2.《従業員良し》
社員が経営まで目指せる会社にする
従業員良しでは、役員育成を一部の幹部だけの特別な教育にしません。一般社員、リーダー、課長、部長、事業責任者、役員という成長段階を明確にし、それぞれに必要な能力、経験、責任範囲を設定します。社員から見て「何を身につければ次の役割へ進めるのか」「どのような経験を積めば経営へ関われるのか」が分かる会社にします。
例えば、一般社員では自分の業務を正確に遂行する力、リーダーでは小さなチームをまとめる力、管理職では人材育成や数値管理、事業責任者では予算、採用、商品、営業などを含めた事業運営、役員では会社全体の戦略や投資判断まで求めるというように、成長ステップを具体化します。こうすることで「優秀だから突然役員にする」のではなく、段階的に経営者として必要な経験を積ませることができます。
さらに、役員には自分自身が成果を出すだけではなく、次の部長や役員候補を育てる責任を持たせます。自分しかできない仕事を抱え込むのではなく、仕事や判断を下の世代へ渡すことも役員の評価対象にします。すると、社長から役員へ、役員から部長へ、部長から次のリーダーへと育成が連鎖します。
社員にとっても、「この会社で働けば管理職まで」「この会社で経験を積めば事業責任者まで」「将来は役員や経営まで挑戦できる」という未来が見えれば、会社で働く意味が変わります。役員育成を会社都合の後継者づくりだけにせず、社員自身の成長機会として設計することが従業員良しにつながります。
3.《顧客良し》
社長が担当しなくても価値が落ちない会社にする
顧客良しでは、「社長が担当すると安心だが、社員になると品質が落ちる」という状態から抜けます。創業者や社長には、長年の経験から生まれた顧客理解、提案方法、判断基準、トラブル対応、商品知識などがあります。これらが社長個人の中だけに残っていると、会社が成長して顧客数が増えたときに品質を維持できません。
そこで、社長が顧客へどのように向き合っているのかを言語化します。どんな顧客を大切にするのか、何を約束するのか、どこまで対応するのか、どんな提案はしないのか、利益と顧客利益が衝突したときどう判断するのかまで整理し、役員へ共有します。役員はその考え方を管理職や社員へ教育し、営業、接客、実務、アフターフォローへ落とし込みます。
例えば重要顧客への対応でも、毎回社長へ確認するのではなく、役員が会社の判断基準に基づいて対応できる状態をつくります。トラブルが起きたときも、社長に電話がつながるまで対応できないのではなく、役員が責任を持って判断します。
こうして社長個人への信用を会社全体への信用へ変えることで、顧客は「社長が担当してくれるから安心」ではなく、「この会社なら誰に相談しても安心」と感じられるようになります。役員育成は社内人材の問題だけではなく、顧客へ提供する価値を安定させる仕組みでもあります。
4.《世間良し》
取引先や社会に責任を持てる経営者を育てる
世間良しでは、役員を自社の利益だけを最大化する人材にはしません。会社の経営判断は、顧客、取引先、金融機関、地域、業界、社会へ影響します。役員には、自分たちの判断が周囲へどのような影響を与えるかまで考える視点が必要です。
例えば、短期利益を増やすために取引先へ一方的な値下げを要求すれば、自社の利益は一時的に増えるかもしれません。しかし、取引先が疲弊すれば品質低下や供給不安につながり、長期的には自社にも返ってきます。売上を作るために顧客へ不要な商品を販売すれば、短期的には数字が上がっても会社への信用は下がります。
役員には、契約、法令、コンプライアンス、取引条件、社会的責任なども含めて判断できる力を育てる必要があります。また、地域企業との連携、新しい雇用の創出、業界全体の改善など、自社の成長を社会への価値へつなげる視点も重要です。
社長だけが「会社としてこれはやらない」「短期的に利益が出てもこの取引はしない」という判断をしている状態から、役員自身が理念や原理原則に基づいて判断できる状態へ変えます。会社の利益だけではなく、関係する人や社会との長期的な関係まで考えられる役員を育てることが世間良しです。
5.《次世代良し》
次の経営者を継続的に生み出す会社にする
次世代良しでは、現在の役員を一人育てて終わりにしません。役員が部長を育て、部長が課長を育て、課長が次のリーダーを育てるという人材育成の連鎖をつくります。会社が成長するたびに外部から経営人材を探すのではなく、社内から継続的に経営人材が生まれる会社を目指します。
そのためには、社長や現在の役員が持っている知識を会社の資産として残すことが重要です。理念、経営判断、顧客との関係、財務の考え方、採用基準、投資判断、成功事例、失敗事例などを記録し、教育へ活用します。特に失敗した経営判断は貴重な教材です。「何を間違えたのか」「なぜその判断をしたのか」「今ならどう考えるのか」を残すことで、次の世代が同じ失敗を繰り返しにくくなります。
また、次世代経営者候補には早い段階から経営会議、予算策定、新規事業、採用、人事評価などへ参加させます。将来社長になってから初めて会社全体の数字を見るのではなく、役員候補の段階から経営経験を積ませます。
最終的には、現在の社長が退任しても理念、顧客価値、経営判断、組織文化が継承される状態を目指します。同時に、次世代が単に過去のやり方を守るだけではなく、新しい技術、市場、働き方へ挑戦できる余白も残します。守るべき原理原則と、変えるべき方法を分けて承継することが重要です。役員育成を事業承継まで見据えて設計することで、現在の会社ではなく、10年、20年先の会社まで強くすることが次世代良しにつながります。
5方良し経営で役員育成を考えると、目的は単に社長の仕事を減らしたり、後継者を一人決めたりすることではありません。会社には社長一人へ依存しない経営基盤、従業員には経営まで成長できるキャリア、顧客には担当者が変わっても安定して受けられる価値、世間には責任ある経営、次世代には理念と経営力を受け継げる会社を残します。
社長が役員を育てる。役員が部長を育てる。部長が次の管理職を育てる。人が育つことで社長から仕事が離れ、社長は未来へ時間を使えるようになる。その未来によって新しい事業や役割が生まれ、さらに次の人材が育つ。この循環をつくることが重要です。役員育成を一部の幹部向け研修として終わらせず、会社全体の成長と次世代への承継を実現する経営システムとして設計することが、5方良し経営における役員育成の考え方です。

「役員はいるが経営判断はすべて自分がしている」「次期役員候補をどう育てればよいか分からない」「右腕を育てたいが、任せるのが怖い」「事業承継を考えているが後継者が育っていない」「社長が現場から抜けられない」。このような悩みがある場合、一度、社長の分身にご相談ください。年商1~100億まで対応。どんな悩みも無料で相談できます。
社長の分身では、最初から「役員研修をしましょう」とは考えません。まず社長の本音を出します。これから会社をどこまで成長させたいのか、社長自身は将来どんな仕事に集中したいのか、誰に何を任せたいのか、どんな経営者を次の世代に残したいのかを整理します。そこから会社の理想像を決め、現在の経営体制とのギャップを確認します。
次に原理原則から、理念、組織、評価、教育、採用、管理を整理します。どんな役員が必要なのか、役員候補は誰なのか、何を経験させるのか、どこまで権限を渡すのか、何をもって役員として合格とするのかまで設計します。さらに、社長が現在抱えている仕事と判断を分解し、「社長に残す仕事」「役員へ渡す仕事」「社員へ渡す仕事」「専門家へ任せる仕事」に整理します。
そして必要に応じて、財務、人事、マーケティング、DX、営業などの専門人材を組み合わせ、社内だけでは不足する機能を補う丸投げチーム設計まで整理します。社長一人の代わりになる万能な右腕を探すのではなく、複数の人材と仕組みに社長の機能を分散させる考え方です。
目指すのは、社長が会社からいなくなることではありません。現在の会社を役員と社員が動かし、社長は未来の会社をつくることへ集中できる状態です。役員育成と社長の仕事の再設計を同時に進めることで、「社長がいなければ動かない会社」から「経営チームで成長できる会社」への転換を目指します。
社長が役員を育成するときに重要なのは、役員候補へ知識を教えることだけではありません。部長と役員の大きな違いは、自部門ではなく会社全体を見て、正解のない問題を判断し、その結果に責任を持つことです。そのためには、まず自社に必要な役員像を決め、社長の理念や判断基準を言語化し、会社全体の数字を共有します。そして小さな事業やプロジェクトから予算、人材、価格、営業などを任せ、実際に意思決定する経験を積ませます。
同時に、社長自身も変わる必要があります。「自分でやった方が早い」とすべてを抱えている限り、役員が経営する機会は生まれません。役員育成とは、優秀な右腕を一人見つけることではなく、社長が持っている情報、判断、権限、責任を段階的に組織へ移していくことです。
最終的に目指すのは、社長がいなくても現在の会社は動き、社長がいることで未来の会社がつくられる状態です。社長から役員へ、役員から部長へ、部長から次の世代へ経営力をつなげられる会社になれば、人材育成そのものが会社の成長力になります。役員育成は、社長の負担を減らすためだけではなく、会社を次の世代まで成長させるための重要な経営基盤です。



